コンパクト位相空間とコンパクトHausdorff空間の商空間・連続像に関する考察

問題の帰結

問: Hausdorffとは限らない任意のコンパクト位相空間達は、常にあるコンパクトHausdorff空間の商空間になるか?

答: いいえ。 常にそうなるとは限りません。Hausdorff性を満たさないコンパクト空間の中には、いかなるコンパクトHausdorff空間の商空間としても表現できないものが存在します。


1. 用語の厳密な定義と論理的関係

位相空間論において、連続写像と商写像、およびそれらによって得られる空間は厳密に区別されます。

定義1:連続な全射 と 商写像

$K$ と $X$ を位相空間とし、$f: K \to X$ を全射写像とする。

定義2:連続像 と 商空間

両者の論理的関係

定義より、すべての商写像は連続な全射です。したがって、「$X$ が $K$ の商空間であるならば、$X$ は $K$ の連続像である」という包含関係が成り立ちます。この対偶をとると、以下の重要な論理的帰結が得られます。

「$X$ がいかなるコンパクトHausdorff空間の連続像にもなり得ない」
$\implies$ 「$X$ はおよそいかなるコンパクトHausdorff空間の商空間にもなり得ない」

したがって、あるコンパクト空間がコンパクトHausdorff空間の商空間になり得ないことを示すには、より条件の緩い「連続像にすらなり得ない」ことを示せば十分です。


2. 商空間の位相が満たすべき必要条件

空間 $X$ があるコンパクトHausdorff空間の商空間であるとき、その位相(どの集合が閉集合であるか)は、外部のコンパクトHausdorff空間からのテストによって完全に支配されます。

【定理1】商空間の位相の決定性

$K$ をコンパクトHausdorff空間とし、$f: K \to X$ を商写像とする。このとき、任意の $A \subset X$ に対して以下の条件 (1) と (2) は同値である。

定理1の証明

ステップ1:$(1) \implies (2)$ の証明(連続性の基本性質)
$A$ を $X$ の閉集合と仮定する。任意のコンパクトHausdorff空間 $C$ と、任意の連続写像 $g: C \to X$ を任意に取る。写像 $g$ は連続であるため、連続写像の定義(閉集合の逆像は閉集合)より、 $X$ の閉集合 $A$ の逆像 $g^{-1}(A)$ は始域 $C$ の閉集合となる。したがって $(1) \implies (2)$ が成り立つ。

ステップ2:$(2) \implies (1)$ の証明(商写像の定義の適用)
条件 (2) が成り立っていると仮定する。すなわち、「どのようなコンパクトHausdorff空間から連続写像で引き戻しても、その逆像は常に閉集合になる」という前提である。

ここで、条件 (2) は「任意の」コンパクトHausdorff空間および連続写像で成り立つため、具体的な例として、定理の仮定に存在するコンパクトHausdorff空間 $K$ と、連続写像としての $f: K \to X$ を適用することができる。したがって、条件 (2) より直ちに次が従う: $$f^{-1}(A) \text{ は } K \text{ の閉集合である.}$$ ここで、仮定より写像 $f: K \to X$ は単なる連続全射ではなく商写像である。商写像の定義(閉集合による表現)に基づけば、「$X$ の部分集合 $A$ が閉集合であることと、$f^{-1}(A)$ が $K$ の閉集合であることは同値」である。既に $f^{-1}(A)$ が $K$ の閉集合であることが確定しているため、商写像の定義から直ちに $A$ は $X$ の閉集合となる。したがって $(2) \implies (1)$ が成り立つ。

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3. 反例 $\mathbb{Q}^*$ の構成と不可能性の証明

有理数体 $\mathbb{Q}$ (通常の相対位相)に無限遠点 $\infty$ を付加した1点コンパクト化を $\mathbb{Q}^* = \mathbb{Q} \cup \{\infty\}$ とします。$\mathbb{Q}^*$ はコンパクト空間ですが、$\mathbb{Q}$ が局所コンパクトでないためHausdorff空間にはなりません。

以下に、$\mathbb{Q}^*$ がいかなるコンパクトHausdorff空間の連続像にもなり得ないことの2通りの証明を提示します。

【定理2】連続像としての不可能性

有理数の1点コンパクト化 $\mathbb{Q}^*$ は、いかなるコンパクトHausdorff空間の連続像(したがって商空間)にもならない。

証明法 A:収束とコンパクト性を用いたシンプルな証明

この証明では、Zornの補題やBaireのカテゴリー定理を使わず、位相空間の基本性質と「$\mathbb{Q}$ のコンパクト集合は内部が空である」という性質のみを用います。

証明法 A

仮に、あるコンパクトHausdorff空間 $K$ から $\mathbb{Q}^*$ への連続な全射 $f: K \to \mathbb{Q}^*$ が存在したと仮定する。

Step 1: $K$ 内でのコンパクト近傍 $W$ の構築
$\mathbb{Q}$ の点 $q_0$(例えば $0$)を任意に1つ固定する。$\mathbb{Q}^*$ において、無限遠点 $\{\infty\}$ は閉集合なので、連続性よりその逆像 $f^{-1}(\infty)$ は $K$ の閉集合である。同様に $f^{-1}(q_0)$ も $K$ の閉集合であり、これらは交わらない。 $K$ はコンパクトHausdorff空間(したがって正規空間)であるため、これら交わらない閉集合同士を開集合で分離できる。 よって、 $f^{-1}(q_0)$ の開近傍 $U$ で、その閉包 $W = \overline{U}$ が $f^{-1}(\infty)$ と交わらないもの( $W \cap f^{-1}(\infty) = \emptyset$ )が選べる。 このとき、$f^{-1}(q_0) \subset \operatorname{int}(W)$ であり、 $W$ の点は決して $\infty$ には写らない。

Step 2: 像 $f(W)$ の「内部が空である性質」から数列を作る
$W$ は $K$ の閉集合なのでコンパクトである。連続写像によるコンパクト空間の像はコンパクトになるため、 $C = f(W)$ は $\mathbb{Q}^*$ のコンパクト部分集合である。 Step 1 より $\infty \notin C$ であるため、 $C$ は $\mathbb{Q}$ の通常のコンパクト部分集合( $\mathbb{R}$ においても有界閉集合)となる。 通常の有理数体 $\mathbb{Q}$ において、コンパクト集合は内部に開区間を含まない(内部が空)。 したがって、 $C$ は $q_0$ のまわりでどれほど小さく開区間をとってもそれを埋め尽くすことができず、必ず $C$ の外側に有理数が存在する。 これを利用して、各 $n \in \mathbb{N}$ に対して、開区間 $(q_0 - \frac{1}{n}, q_0 + \frac{1}{n})$ の中から、 $C$ に属さない有理数 $r_n$ を1つずつ選ぶことができる( $r_n \in \mathbb{Q} \setminus C$ )。 この構成により、 $\mathbb{Q}^*$ において $r_n \to q_0$ となる有理数数列が得られる。

Step 3: 集積点による矛盾の導出
$f$ は全射なので、各 $r_n$ に対して $k_n \in f^{-1}(r_n)$ を選ぶことができる。 $r_n \notin C = f(W)$ であるため、すべての $n$ について $k_n \notin W$ (すなわち $k_n \in K \setminus \operatorname{int}(W)$)である。 $K$ はコンパクト空間なので、この無限点列 $k_n$ は必ず $K$ 内に集積点 $k_\infty$ を持つ。点列 $k_n$ はすべて閉集合 $K \setminus \operatorname{int}(W)$ の中にあるため、その集積点 $k_\infty$ もまた $K \setminus \operatorname{int}(W)$ の元でなければならない。 しかし一方で、写像 $f$ の連続性から、 $k_n$ の集積点 $k_\infty$ の像 $f(k_\infty)$ は、像の数列 $f(k_n) = r_n$ の極限である $q_0$ に一致しなければならない。すなわち、 $k_\infty \in f^{-1}(q_0)$ である。 Step 1 より $f^{-1}(q_0) \subset \operatorname{int}(W)$ であったため、 $k_\infty \in \operatorname{int}(W)$ でなければならない。 これは、「 $k_\infty$ は $\operatorname{int}(W)$ の外側にある」ということと完全に矛盾する。

$\blacksquare$

証明法 B:Baireのカテゴリー定理を用いた別証明

こちらは位相空間論におけるより標準的かつ強力なアプローチであり、写像の既約性とBaire空間の性質を利用します。

証明法 B

仮に、あるコンパクトHausdorff空間 $K$ から $\mathbb{Q}^*$ への連続な全射 $f: K \to \mathbb{Q}^*$ が存在したと仮定する。

Step 1: 既約な連続全射の構成
$K$ の閉部分集合からなる族 $\mathcal{F} = \{ F \subset K \mid F \text{ は閉集合で } f(F) = \mathbb{Q}^* \}$ を考える。$K$ のコンパクト性により、$\mathcal{F}$ の任意の減少列の共通部分は全射性を維持する。したがってZornの補題より、$\mathcal{F}$ には包含関係に関する極小元 $M$ が存在する。 $M$ はコンパクトHausdorff空間 $K$ の閉集合なのでそれ自身コンパクトHausdorff空間であり、制限写像 $f|_M: M \to \mathbb{Q}^*$ は連続な全射、かつ既約写像となる。

Step 2: Baireのカテゴリー定理の適用
$\mathbb{Q}^*$ は可算集合であるため、空間 $M$ を以下のように可算個の閉集合の和集合として分解できる: $$M = \bigcup_{y \in \mathbb{Q}^*} (f|_M)^{-1}(y)$$ $M$ はコンパクトHausdorff空間であるため、Baire空間である。Baireのカテゴリー定理により、可算個の閉集合の和集合が内部を持つならば、少なくとも1つの閉集合は内部(空でない開集合)を含まなければならない。 したがって、ある点 $y \in \mathbb{Q}^*$ と、$M$ の空でない開集合 $V$ が存在して、 $V \subset (f|_M)^{-1}(y)$ が成り立つ。

Step 3: 既約性との衝突による矛盾の導出
$V$ は空でない開集合であるため、その補集合 $M \setminus V$ は $M$ の真の閉部分集合となる。制限写像の既約性により、 $f(M \setminus V)$ は $\mathbb{Q}^*$ 全体にはなり得ない。 開集合 $V$ の元はすべて $f$ によって1点 $y$ に写されるため、$M \setminus V$ が写り損ねる元は $y$ のみである。全射性より、 $f(M \setminus V) = \mathbb{Q}^* \setminus \{y\}$ となる。 $M \setminus V$ はコンパクトなので、その連続像 $\mathbb{Q}^* \setminus \{y\}$ もコンパクト部分集合である。 $\mathbb{Q}^*$ の位相の定義において、任意のコンパクト部分集合は必ず閉集合となるため、$\mathbb{Q}^* \setminus \{y\}$ は $\mathbb{Q}^*$ において閉集合である。 その補集合を考えると、単元集合 $\{y\}$ は $\mathbb{Q}^*$ において開集合、すなわち点 $y$ は $\mathbb{Q}^*$ における孤立点となる。 しかし、有理数体 $\mathbb{Q}$ およびその1点コンパクト化 $\mathbb{Q}^*$ には孤立点が一切存在しないため、これは矛盾である。

$\blacksquare$

4. 総括

本稿で証明した通り、$\mathbb{Q}^*$ はいかなるコンパクトHausdorff空間の「連続像」にもなり得ません。商空間の本質的な前提は連続な全射が存在すること(商写像 $\implies$ 連続な全射)であるため、連続像にすらなれない $\mathbb{Q}^*$ は、当然いかなるコンパクトHausdorff空間の「商空間」にもなり得ません。

直感的には、任意の空間 $X$ を一度離散空間 $X_d$ とみなして Stone-Čech コンパクト化 $\beta X_d$ (これは常にコンパクトHausdorff)からの自然な全射を構成すれば、すべてのコンパクト空間をコンパクトHausdorff空間の商にできるように錯覚してしまいます。しかし、その写像が連続性を保ったまま拡張できるのは写像先が完全正則(Tychonoff)かつHausdorffである場合に限られます。$\mathbb{Q}^*$ のような「コンパクトでありながらHausdorff性を欠き、かつコンパクト集合がスカスカである空間」は、コンパクトHausdorff空間の商という『質の良い世界』からは決して到達できない明確な反例となっています。